本記事は、全日本不動産協会大阪府本部が、2025年3月1日に開催した「教えます㊙セミナー 信頼できる不動産業者の見分け方 〜わるい不動産業者にだまされないために〜」のプログラムをテーマごとに書き起こしたものになります。一般消費者の方だけでなく、これから不動産業での独立開業を目指している方にも役立つ内容となっておりますので、是非ご覧ください。
セミナー開会の挨拶
今回のセミナーは、当協会に苦情が寄せられた事例をもとに「◯◯新喜劇」をイメージした分かりやすい不動産セミナーを皆様に聞いていただきたいと思います。一般消費者の皆様には、本日のセミナーを通して不動産の知識を持っていただくことで、トラブルを未然に防ぎ、安心、安全な取引をしていただきたいと考えております。
世の中には残念ながら、不動産知識の乏しい消費者に近づき、消費者を騙してお金を奪い取る悪い不動産業者がいます。本日のセミナーでは、実際の事例をもとに8つの例を挙げて、不動産の取引上の注意点をご説明させていただきます。難しいイメージのある不動産を、今回のセミナーを通して、コミカルな掛け合いでわかりやすく説明させていただきますので、このセミナーをお楽しみいただき、有意義な時間にしていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
テーマ②:おとり広告での誘引(好立地なのに格安家賃)
では次のテーマに進みたいと思います。2番「おとり広告で誘引」です。賃貸に多い手口で、おとり広告で誘引し、ホステスやホストばりの営業が接客、何件もの物件を引っ張り回して案内し、最後は強引に契約させられてしまいます。残念ながら地方から出てきて間もない女性などはほとんど泣き寝入りをしてしまうことが多いんですね。では、どうぞよろしくお願いします。
客:こんにちは。賃貸物件を探しているんですけども、御社のチラシで「南森町の駅前タワマン・最上階が20万円」で募集があるって書いてあったんですが、それってまだありますか?
悪徳不動産業者:いらっしゃいませ。まず、おしぼりをどうぞ。あとドリンクがあるんですけども、アルコール以外はなんでも大丈夫です。
客:ありがとうございます。ではオレンジジュースを。
悪徳不動産業者:かしこまりました。お住まいは、お1人での入居を予定されていますか。
客:はい、1人です。予算も20万円と決まっているので、その範囲だとこの物件がいいかなと思って。
悪徳不動産業者:素晴らしいですね。ちょうどですね、あったんですけども、お客さんすみません。タワーマンションは昨日契約したんですよ。良いマンションはすぐ売れてしまうので、すぐそこにも良い物件があるんですが、一緒に見に行きませんか。
悪い業者ですねえ。いかにも「良い物件があるので案内しますよ」と言いながら、女性の肩を抱くように店を出る(会場笑い)では続きをどうぞ。
客:今日は見せていただいてありがとうございます。5件も見せてもらって悪いんですけど、気に入ったものもないので、今日はもう帰らせていただきたいと思います。また良い物件があればご連絡いただけたらと思ってるんですけど、いかがですかね。
悪徳不動産業者:非常に残念です。悲しい気分になっちゃうんですが・・・そうですか。せっかくこれだけ見て回ったんですから、次はすぐ決められるように、とりあえず保証会社の審査だけでも先に通しておいてはどうですか。例えば、今日見た物件の中で、どの物件が良かったですか。いいのがあったと思うんですが、どの物件でも良いので審査の書類にサインをしていただいて帰ってもらえますか。
賃貸の家賃保証会社ってあるんですけれども、その家賃保証会社の審査を通しておいてから、業者さんが次の日にお客様に電話するケースが多いんですね。翌日の様子です、どうぞ。
悪徳不動産業者:もしもし、おめでとうございます。保証会社の審査が通ったので、パラダイスマンションの2301号室の契約金23万円を支給、振り込んでもらえますか。契約は来週の日曜日10時、印鑑と免許証を持ってきてくださいね。
客:ちょっと待ってくださいよ!私、サインはしましたけど、そこを借りるって言ってませんよね。「とりあえず」ということだったんで、とりあえず書かせていただきましたけど、契約する気全然ないんですよ。それに23万円なんて無理です。払えません。
悪徳不動産業者:勘弁してくださいよ。あんたが借りたいって言ったんやから、保証会社も審査もしたし、もう既に費用が発生してんねん。あんた今さら何言ってんの。ええ大人がごちゃごちゃ言うな。諾成契約は成立してるし、履行の着手もしてるねん。断るんやったら仲介手数料と保証会社の費用を払ってもらうで。出るとこ出てもええんやで!
こんなこと絶対やってはいけません(笑)ただですね、こんなことがあるんですよね。テーマ①に続いて「履行の着手」という言葉が出てきましたが、先生、ご意見よろしくお願いいたします。
このテーマについて未来総合法律事務所 石那田弁護士の見解
石那田弁護士:まず、業者役の方に確認したいんですけど、業者側の仲介契約は諾成契約であると。つまり、書面はなくても、口頭で契約が成立するから、それが成立してるんだという主張ですね。はい、わかりました。
当事者の合意のみで成立する契約のことを「諾成契約(だくせいけいやく)」と言います。確かに賃貸の仲介契約は諾成契約であり、書面を交わさずとも、仲介を依頼しました、仲介の依頼を受諾しました、というお互いに意思の合致があれば成立します。宅建業法上も、不動産売買の仲介契約の場合は書面の交付が義務付けられていますが、賃貸の仲介契約に関しては、書面の交付は義務付けられていません。
もし本件が裁判になった場合を想定して話をすると、仲介契約の成立に関する主張、これを立証する義務は業者側にあります。つまり、業者側がその主張を立証できないのであれば、業者側は裁判に負けることになります。主張立証責任というのは、そのような責任を負担しているものが、裁判で積極的に主張して、その立証ができなければ、その主張は認められないということを意味します。

お客さん側について、私の意見を申し上げると、お客さんは実際に「借りる」とまで言ってませんよね。それであれば「契約など成立しない」と主張を強くして、業者側の主張など相手にしなければ良いと思います。家賃保証会社の審査をしてもらったことだけをもって、業者側が「顧客に確定的に借りるという意思表示があった」ということまでを立証することは困難であると考えられるからです。
また、契約等の書面といった客観的な証拠がないと、契約の成立を立証することは裁判上困難ですし、そもそも実務上、普通は署名でのやり取りをしますよね。それが、書面でのやりとりもないのであれば、おそらく「そういう契約はなかったんではないか」という判断になりやすいと思いますので、その点からも業者さんの主張というのも認められないと思いますので、お客さんとしては、いくら横暴に言われたとしても、絶対に応じてはいけません。
あくまでも可能性ですが、業者側が主張する内容としては、仮に契約が成立していない当事者間においても、相手方の合理的期待を裏切るような行為をすることによって、相手方に損害を与えた場合は、いわゆる契約締結上の過失という考え方に基づき、損害賠償請求をすることは可能です。契約が成立してない、契約成立前の段階であったとしても、請求できる場合があります。
おそらく業者側はそのような考えに基づき、履行の着手を主張して、仲介手数料や保証会社の費用の損害賠償請求をしている可能性もあります。そこまで難しいことは考えてないかもしれませんが、弁護についたらそういう主張をする可能性もあります。しかしながら、契約締結上の過失に基づき損害をもったということを主張、立証する責任も業者側にあります。本件で業者側の損害賠償請求が認められる可能性は低いと考えます。
なぜなら、業者側が家賃保証会社の審査を依頼したからといって、その後に顧客が仲介契約を締結しなかったとしても、業者側の仲介契約成立への期待が合理的なものとは考えられないからです。また、消費者側の行為態様が悪質であるということも評価できないというわけです。
そして、そもそも業者側に先ほど損害が発生したって言ってますけど、本当に損害発生しているのか自体疑問です。まず、家賃保証の審査だけで費用がかかるというのは、なかなかちょっと考えがたい。仮にあったとしてもわずかなものだろうと推測されます。
また、契約締結上の過失の場合というのは、契約が成立した場合に認められるような利益(仲介手数料など)、いわゆる履行利益が対象になるので、契約成立を前提とした損害は認められません。そうすると、仲介手数料をもらうには、仲介契約の成立・賃貸借契約が成立、この2重の契約が成立して初めて認められるものなので、契約締結上の過失に基づいて、その仲介手数料をそのまま損害賠償請求することはできません。法的にそれはできないんですね。そういう意味でも業者側の主張というのは難しいと思われます。
次ですね、まさに「おとり広告」の件ですね。実際には賃貸ができない物件の情報を市場に出すようなおとり広告は、宅建法上、著しく事実に相違する表示として禁止されています。これは、成約済みの物件をインターネットに掲載したままにしておくことも含みます。ただし、先ほども申し上げましたように、宅建業法に違反していると、行政処分の対象になる可能性はありますが、だからといって裁判で直ちに契約の有効性に影響を及ぼすと主張することはできませんので、その点についてはご注意ください。
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